※英日前提 日←香







しあわせだったでしょう、おれも、しあわせだった。

薔薇の下、二人
(そうして諦めは赤い華に吸い取られ益々色濃く成長していく)




「香港さん、お久しぶりです」

にこり、薄く微笑みを浮かべながら日本が顔を覗かせた瞬間、香港は目を丸めて日本の名前を呼んだ。日本は複雑な感情を抱えたぶきような微笑でもって香港の声を受け止める。
「日本兄。どうして、ここに?」
「・・・ああ、そうです。イギリスさんにお渡ししたいものが」
日本がどことなく柔らかな口調となってイギリスの名前を出した途端 香港が掃いていた落ち葉がさわさわと揺れては風に靡いた。眉を歪めた香港へ含んだ笑みをよこした日本は、ふとイギリスに名前を呼ばれて微かに頬を染める。イギリスは普段気を使っている身だしなみも整わないまま、訪れた日本を香港以上の驚きで迎え入れた。
「に、日本。早かったな」
「ご迷惑かとも思ったのですが・・・。・・・また改めましょうか」
イギリスの身なりをしげしげと眺めた日本は、楽しげな声とともに意地悪な提案を行なった。イギリスは日本の言葉に目を白黒させたもののすぐに十重に包まれた冗談だと見破り肩を竦めてみせる。日本はもう一度香港へ振り返り、頬に僅かな赤みを帯びたまま照れたように笑った。
イギリスの薔薇園は見事なものだった。いつのことだったか、植物を綺麗に咲かせることの出来る人は優しい人だと日本に教えてもらったことがあって、言い含めるような日本の言葉と優しい目を思い出すうちに香港はイギリスのことを怖いとは思わなくなっていた。ただし口下手ではあって、そんなところを日本がどう思っているのかも、薔薇を見る視線で知った。聡い子は望まれるが聡すぎる子は疎まれる。香港は寡黙な唇を更に閉じて、薔薇をひとつひとつ見て回る日本と その後ろを付いていきながら時折説明を加え、日本の感心したような声に微笑むイギリスを見ていた。薔薇が色濃く赤色に染まっている。大輪の薔薇の中でふと立ち止まりお互いを見つめていた彼らの何て麗しいことだっただろう。
イギリスの薔薇園は見事なものだった。香港は、その見事さと日本の言葉故にイギリスを嫌うことが出来ない。






「すっかり話し込んでしまって。香港さんも、またお会いしましょうね」

恥ずかしげに日本が声を上げると、イギリスは甘く瞳を細めて頷いた。香港も見送りに出たイギリスの後ろで軽く頭を下げ、お元気で、と体調の不変を望む。日本は笑って一礼し、石畳の上を小さな歩幅で歩いていった。夕焼けに染まる着物の色が淡くオレンジ色に煌く様を、イギリスはただじっと見守っていた。香港はその様子を眺めながらイギリスの名前を囁く。
「今日も好きって言えませんでしたね」
「・・・煩い、ばか」
香港の言葉に一転して溜め息を吐いたイギリスを見つめながら、香港は感情の起伏もない顔つきを保って目を細めた。
「多分、脈ありですよ」
勿論俺の勘ですけど。さらりと付け加えることも忘れずに香港が言葉を重ねると、イギリスは顔を真っ赤にして黙り込んだ。香港は自分が知らず知らずのうちに浮かべていた苦々しい笑みを服の袖で隠して言葉を見つけ出す。

「・・・俺は二人のこと、どっちも嫌いじゃないですから、二人が幸せなら俺も幸せになれると思います」
香港は薔薇のように真っ赤な嘘をついた。イギリスの緑色の瞳が答えを探して瞬きされるのを見上げながら、ただ香港は美しき薔薇園の中で咲き誇る真紅の花と、その花を育て上げた人の性格を考えこんでは嫌いになれない自分にうんざりする。


(最初から、貴方を嫌いでいられていたらもしかして )
(そんなこと微塵も考えられないほど、お似合いでしたよ)





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嫌いでいられたら恋敵と思えるだろうに嫌いではないからどうしようもない、そんな当たり障りない結末の恋でした。