(お題:節分/宮崎)
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    (「嫉妬」) (「欲望」) (「・・・邪気」) (「憂鬱」) (「悲観」)



    ひとつひとつ豆を摘まんでは食べて摘まんでは喉に押し込めていく。もくもくと食べ続ける香港へ、日本は薄く笑みを浮かべて首をかしげた。
    「熱心に、食べておられますね」
    日本の声はどことなく怠惰で、これ以上もなくやさしかった。香港はうっすらと細くしていた目を瞬きさせてまた一粒豆を食べた。
    「日本兄は 」
    途切れた言葉を感じ取ってくすくすと笑った日本は、机に詰まれた豆を見て 足りませんから と一言囁いた。
    「私のところの風習ですけれど、流石に私が実践すると大変なことになります」
    悪戯気に呟いた日本の声を愛しいと思った香港は、楽しげなその空気を崩したくなくて一度頷いた。
    「あなたは食べられるでしょうから、しっかりと邪気を追い払ってくださいな」
    日本は低い声で歌いかすかに身を引いて香港を見つめる。視線の鋭さはそのまま日本の意思となり、香港を巡った。
    「邪気?鬼じゃ、なくて ? 」
    香港は思いつくまま声を上げてまた一つ豆を手に取った。硬さをもっているそれは口に入れ噛んだら思わぬほどに柔らかく砕ける。
    「鬼とも言われますが、元々は邪気と考えられていたのですよ」
    にこりと笑っては説明をする日本は、手慰みのように紙で作られた鬼の面を撫でた。
    「豆を食べれば、一年を幸福に過ごせると」
    日本がおっとりと説明をしたことに、香港は頷いて丸い豆を指の先でつまんだ。

    (邪気は、人から出るもの で、人の感情 だ)

    香港は考えながら目を閉じて、豆を口の中に放り込み咀嚼していく。嫉妬、悲観、憤怒、情念。そんなものが寄り集まって一年かけて邪気を為していくのだ。
    (追い払うなんて、できないのに)
    香港はふと浮かんだ否定的な意見を封じ込めて日本を見つめた。日本は薄く微笑みながら香港の食べる様子を見ては安心したように笑っている。
    (これは、嫉妬)(これは、切情)
    香港は豆の一つ一つに自分が抱えている重苦しい感情を重ねていく。胃に入れて溶かしてしまえば、或いはもっと清らかな心で彼の人を愛せるかとも信じた。
    (これは、憤怒)(これは、)
    食べながらも、香港はふと紛れ込んでいた形の悪い豆を見つけて目を丸めた。同じ豆を見つけた日本もおや、と言ったきり黙りこむ。

    (これは、恋情)

    香港は形の悪い豆を手にとってしげしげと見つめた後口に入れて二三度咀嚼した。味の無い豆は形が悪くても変わることなく、香港は再び目を閉じて溜め息をつく。
    「一年、追い払えたらいい」
    香港の呟いた言葉の真意を知らない日本は、本当に、といって小さく笑った。



    (あなたへの思い、一年かけて歪んでいく)

    (あなたへの思い、また一年かけて深くなっていく)



    (とどまらない、歳の数みたいに)